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差出人名のない1通の手紙が。中には新聞の文字を切り貼りした便箋が。『今すぐ婚約を解消しなさい。さもないと産まれてきたことに後悔するでしょう』

私と彼は、お互いの家族にも紹介し合い、結婚の日取りの相談などのんびりしながら、幸せな日々を過ごしていました。

そんなある日、一人暮らしの私の家のポストに差出人名のない1通の手紙が入っていました。
中を開けて見ると、かわいい便箋には似つかわしくない手紙が入っていました。
何かの推理ドラマ等でよく見る、新聞の文字を切り取って貼り付けた手紙・・・
内容を要訳するとこうでした。

今すぐ婚約を解消し、優一と別れなさい。
さもないと、産まれてきたことに後悔するでしょう。

産まれてきたことに後悔するって・・・
今時の昼ドラの台詞でも聞きそうにない言葉にちょっとあ然としてたら、段々恐怖心がわいてきました。
思いをめぐらせてみても、人の恨みを買うようなことはしていないし。

もしかして彼が浮気しててその浮気相手が?!
そう思い至って、このままにしておいても恐いので、彼の家へ行って直接聞いてみる事にしました。

私「今日こんな手紙が届いたんだけど・・・」
優一「は?!何だよこれ、警察に届けた方がいいよ!」
私「まさか浮気とかしてないよね?」
優一「するわけないだろう。でも、そう考えるのは当たり前か・・・」
優一「してない証拠といっちゃ何だけど、携帯見てみてよ。」

そう言われて携帯を満遍なく調べてみたけど、怪しいところは全くありませんでした。
なんでそう言い切れるのかと言うと、携帯の電話帳に入ってる人の名前はほぼ私とも顔見知りの人たちばかりで、私が知らない人とはほとんど連絡を取っていませんでした。
後に、これだけじゃ自分の気が済まないからと、携帯の履歴まで見せてくれました。

その翌日、一応警察へも行き、結婚するまで一緒に住むのはやめておこうと決めておいたのですが、私の親に事情を説明し、誰が犯人か分かるまで(私の実家は職場から遠いので)彼と一緒に住むことになりました。

それから数週間は、何事もなかったかのように平和な時が過ぎていきました。
だけど、家を空けている事に不安だったし、あれは誰かの悪い悪戯でもう大丈夫なんじゃないかと思い、彼に頼んで一緒に私の家へ様子を見に行くことにしました。
そこで私が見たものは・・・

入り口のドアに、あの新聞を切り取って作った文章で「売春女」や「死ね」等、他にも色んな罵倒の言葉が貼り付けてあり、ポストの中には生ごみが溢れんばかりに突っ込まれていました。

こういうのは、テレビのドラマの中でしか起こりえないと思っていたのに、いきなり自分に向けて突きつけられて
あまりの現実味のなさに、しばらくぼぉっとしながら他人事のように眺めていました。
彼の言葉で我に返り、取り合えず家の中へ入る事にしました。
幸い、部屋の中は無事だったのでひとまず安心していたら、段々恐怖がわき上がってきました。

これから何があるか分からないし、役に立つかもしれないから写真を撮っておこうと言われ、家の前の惨状をデジカメに写して、本題に入りました。

優一「こんな事され続けてたらこの先、段々エスカレートしていって瑞季自身に被害が及ぶかもしれない。」
「そうなる前に、いったい誰の仕業なのか確かめる必要がある。」
「だから俺は、今日からしばらくこっちに泊まって様子を見る」
私「とても恐いけど、これは私の問題でもあるし、いったい誰がこんな事をやっているのか自分の目で確かめたい。」
優一「危ないから瑞季は俺の家にいろ!」

そう言う彼を説得し、その日から私たちは私の家に泊まることになりました。

彼が家にきてからは、嫌がらせもぱったりと止んで、あれは夢か何かだったのかと思い始めていた頃、あの嫌がらせの手紙の件から今まで、毎日私を職場まで迎えに来ていた彼が、会社のトラブルで残業になり、どうしても迎えに来られなくなってしまいました。

嫌がらせから今まで私自身に被害が及んだこともなかったし、近頃は音沙汰もなく平和に暮らしてたし、地下鉄を降りて家まで10分くらいだから、今日くらい大丈夫だろうと思って、一人で歩いて帰ることにしました。
今思うと、タクシーでも拾って帰った方が賢明だったなと思います。

地下鉄も出て、家まであと半分くらいと言う所で、前から深い帽子と眼鏡(サングラス?)を身に着けた見るからに怪しげな女性が歩いてきました。
不審に思って、相手に悟られないようにバッグの中で、いざという時のために「110」を携帯に打ち込み、後はかけるだけの状態にしておいて、通話ボタンに指を乗せたままその女性とすれ違いました。
(すれ違ったと言っても道の反対側に居たわけですが。)

何事もなかったので私の思い過ごしか。
と安堵したとたん、後ろからこちらに走ってくるような足音が。
ハッとして振り向こうとした瞬間、髪を引っ張られ、首筋に痛みが走りました。

何をされたのか一瞬の出来事で、理解できないうちに私はその女性を突き飛ばしました。
そうするとその女性が倒れた拍子に帽子が脱げ、顔があらわに。
暗いけど、見間違えるはずはない。

そこに居たのは・・・

彼の い も う と でした。

状況を飲み込めず、恐怖心も先にたっていたので、私はそのまま人気のある道路へ向かって走り出してました。
それ以上後ろから足音がついて来ることはなく、襲ったのが彼の妹さんだと分かり
警察ではなく、取り合えず彼へ電話することに。

電話で彼に事情を説明しながら
明るい所で自分の姿を鏡を取り出して見てみると、首の後ろの方から血が出ていました。
だけど、それはそんなにたいした傷ではないみたいでした。

それよりショックを受けたのは、髪の方でした。
切られていました、バッサリと。
彼に長い髪の瑞季は好きだと言われ、伸ばしていた髪なのに。

彼の方は「信じられない、まさか・・・そんな。風子が・・・」
とうわごとの様に言っていました。
私でさえ信じられないのに・・・。

その後、私はタクシーを拾って一応救急病院へ行き、傷口を見てもらってから診断書を貰いました。
傷口は縫うほどでもなかったので一安心です。
そうこうしている内に、彼が飛んできてくれました。

髪をバッサリ切られ、首にガーゼを付けられている私の姿を見て
彼は「ごめんな・・・」と言いながら泣いていました。
私より彼の方が取り乱しているようでした。

そしてすぐに彼の両親に連絡し、妹さん夫婦の家へ行くことにしました。
小さな子供も居る妹さんの家へ行くのは躊躇われたのですが、そうでもしないと話しに来てくれないだろうと言う事で
妹さん夫婦の家で話し合うことに。
(失礼ですが)逃げられるかもしれない事を考慮して、妹さん夫婦へは連絡を入れずに向かいました。

妹さん夫婦の家へ着いてチャイムを鳴らし、出てきたのは旦那さんでした。
何事かといぶかしんでる旦那さんを横目に、家の中へ。

するとすぐに、何食わぬ顔で妹さんも出てきました。
風子「皆してどうしたの?」
優一「どうしたもこうしたもないだろう!自分のしたことが分かってるのか?!」
風子「何のことかよく分からないんだけど。それに子供も居るのに夜中に上がり込んでくるなんて、非常識な婚約者よね。」
一同、あ然。

今にも引っ叩きそうになっている優一を見かねた両親が、取り合えずリビングへ移動し
旦那さんも交えて話し始めました。
(子供は2階で眠っているようでした。)

彼父「瑞季ちゃんから聞いたんだけど、風子が瑞季ちゃんに怪我を負わせたのは本当なのか?」
仁朗「えっ?!どういうことですか?!」
彼父「仁朗君は黙っていてくれ。」
風子「怪我負わされたなんて、大変でしたね。でも、そんなの言いがかりよ。」

ここにきて、初めて怒りがわき始めました。

私「私は、ちゃんと風子ちゃんの顔もみたし、もしそうやって白を切り続けるつもりなら、出るとこにでますから。」
私「嫌がらせしてた証拠品もちゃんと取ってあるし。今正直に話してくれたら、警察に行くのを考えてみてもいいけど。」

そういうと、警察という言葉に怯んだのか、事の顛末を話し始めました。
要訳するとこう。

私は、本当の兄妹じゃないと知ったときから、ずっと兄の事が好きだった。
(えぇっ?!本当の兄妹じゃないなんて聞いてないんだけど。)
でも、妹としてしか見てくれない兄に苛立って、いろんな人と付き合った。
そうしてるうちに子供が出来てしまった。

だから、付き合ってた人の中で一番お金持ちで、一緒にいる時間の少なそうな仁朗の子供にして結婚することにした。
そうすれば、仁朗のお金で兄に色々買ってあげられるし、兄と一緒に過ごす時間も増えると思った。
そしたら、兄も私を好きになってくれるかもしれないと思った。
(本人の前で堂々と言うなんていったいどんな神経してるんだろう・・・)
誰の子供かは分からない。

そんな時、兄が婚約すると聞いて焦った。
しかも、結婚したら中々会えなくなる距離に引っ越すと聞いて余計に、いてもたってもいられなかった。
兄をそそのかした女が許せなかった。
結婚して兄の子供を産まれるのがどうしても耐えられなかった。(デキ結ではない)

恐い目に合わせれば兄のことを諦めるだろうと思った。
だから毎日子供を託児所に預けて、瑞季の後をつけて機会をうかがっていた。
そうしたらたまたま1人で歩いていたから、髪を切り、その後で呼んであった仲間の男友達に連絡して無理矢理させるつもりだった。
(なんでそこまで髪に執着していたのかは今でも謎。)
そして兄に瑞季を軽蔑させようとした。
だけど、男友達は間に合わなかったし、顔を見られて恐くなって逃げた。

聞いてると、いろんな意味で気絶しそうになりました。
一緒に聞いていた一同も呆然。
確かに、前々からかなり仲のいい兄妹だとは思っていましたが
(週に2,3回は必ず電話、週に1回は一緒にお出かけ。)
まさか妹さんの方がそんな風に彼を見ながら一緒に過ごしていたかと思うと、吐き気までしてきました。

その後はもう修羅場でした。
旦那さんと優一は怒鳴るわ、両親は二人して私に土下座するわ、私はあまりの恐さにガタガタ震えるしかないわで。

結局、妹さん夫婦は離婚。
子供はもちろん妹さんが引き取りました。
私たちには、今後一切私と優一には近づかないという念書を親に書かされ、しぶしぶ承諾。
その後、親子の縁を切られてました。

何で実の兄妹ではない事を私に言わなかったのかというと、優一の中では本当に実の兄妹だったから
その事はそこまで重要なことだとは思わなかったからだそうです。
まぁ、聞いたところで私もこの事件の前なら、気にも留めなかったでしょうが。

私たちはと言うと、もうすぐ結婚します。
私と彼が精神科に通ったり、私の両親とこの事で揉めたりしていて遅れましたが。

妹さんのところからはかなり遠くへ二人で引っ越して、連絡先もこの事情を知る人以外には教えてないけど
いつまた妹さんが現われやしないかとびくびくしながら暮らしています。
式の日もとても不安です。
だけど、今度何かあったら、その時こそは訴えるつもりです。

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