当時、次女を妊娠中だった私は里帰り出産を予定していた。
実家は両親と独身の妹、私と長女で一時的な5人家族。
予定日の3週間前の夕方、実家でくつろいでいたらお腹が痛くなった。
痛みに波があって間隔短くなってるけどまさか陣痛?
病院に電話したら「いつでも来て下さい」と言われた。
その時、両親と妹+長女は夕飯の買い物に出かけていた。
入院の準備をまだしていなかったので、ひとりで支度をしていたら破水した。
パニックになり両親と妹に電話するも、誰も出ない。
電話帳を探してタクシー会社に電話した。
私は大学は都心に下宿していたので、
高校を出てからずっと実家では暮らしていなかった。
タクシー会社に電話して、住所を伝えると該当住所なし。
私の実家の位置は昔から変わっていないのに
私が実家を出てから区画整理があったらしく
微妙に住所や番地が変わっていた。
年賀状なんかはソフトで作っているので、新しい住所がわからない。
破水してるので急いでほしいと伝えてもタクシー会社のマニュアルなのか、
住所を確定させないと迎えに行けないと言われた。
実家から目と鼻の先の目印の建物を伝えても
そこから南に何軒と伝えても「少々お待ち下さい」で放置。
赤さんが下がってくる感じがしたし
田舎なのでタクシーに来てもらうにしても20分はかかる。
諦めた私は自分で運転して病院に向かうことにした。
家の外に出て気付いた。
両親と妹が乗って行ってしまったので、家の車がない。
ただ、運のいいことに、そこにはレンタカーがあった。
妹が借りて、友人数人と深夜発でボードに行く為に借りたレンタカーだった。
鍵は玄関で発見。背に腹は代えられないので、勝手に借りて病院に向かった。
病院を目的地にしようにも、触ったことのないメーカーのカーナビ。
ナビの操作は諦めた。
どんどん酷くなる陣痛に耐えながら病院に向かうも
道を間違えたり、右折したいところで車線変更ができなかったりで
病院に近づけない。
片側一車線の国道を走って赤信号で止まった時、お股に違和感を感じた。
頭が半分出てた。
こりゃやばいと思って、諦めてサイドブレーキを引いた。
シートを倒して後ろ向きになり、四つん這いの姿勢になり
いきんでみたらビリっと破れた感覚があって、私は断末魔の叫びを上げた。
次の瞬間、頭が全部出た。
血だらけだし汗だくだし、地獄絵図だったと思う。
頭は出たけど、どうしよう?引張ってくれる人がいない。
自分で引張り出すしかないのか?と頭を整理していると、
クラクションがビービー鳴ってるのに気付いた。
私は完全に通行を止めていた。
次の瞬間、運転席の窓をノックする人がいた。
「信号青になってんのに何で動かんのやゴルァ!」
「おい!よお!聞いてんのか?」
運転席の窓が開けられなかったので
手の届く範囲にある、運転席の後ろの席の窓を開けるボタンを押した
絵に描いたようなチンピラ風の男性が睨んできたので
「出産中です。動けません。」
と告げて窓を閉めた。
赤さんの頭が出たと言っても、まだお腹が大きいので
なかなか届かない手を伸ばして、なんとか頭を掴んだ
掴んだものの、肩が引っ掛かってるのか、なかなか出てこない
赤さんを少し回転させたら引っ張り出せそうだったので
思い切って引っ張り出したらズルンと出てきた
その瞬間、救急車の音が聞こえた。
チンピラが呼んでくれたのかもしれない。
引っ張り出した赤さんが泣かないので、背中を上にして叩いていると
救急隊の人が来てくれて、処置をしてくれた。
車の中で臍(ヘソ)の緒を切って分離してもらい、同じ救急車で病院に。
赤さんは女の子で、救急隊の人が口の中の羊水を抜いてくれたら元気に泣いた。
安心した私は、その後の記憶があまりない。
病院に着いて、赤さんはきれいに洗ってもらい
私は後処理を受けたが大変なことが。
なんと胎盤がなかった。
レンタカーに置いてきたというか落としてきたらしい。
レンタカーは現場に放置、
運転席が血だらけで運転しがたい状況だったので
事故扱いでレッカーされたと聞いた。
レンタカー屋さんには本当に申し訳ないことをしたし
清掃代としてかなりの額を払ったと後日、旦那から聞いた。
そして出生場所が病院の住所ではなく、交差点の住所になっていた。
あと、自分で取り上げたせいか、出産費用が随分安かった。
ちなみに「救急車をタクシー代わりにしてはいけない」
という刷りこみがあったので、救急車を呼ぶ概念はかなった。
破水して車がない時は、遠慮なく救急車を呼んでいいそうです。