うちの会社は小さい出版社なんだけど、そこに国立大卒の新人が入ってきた。
地元の国立大卒って珍しくもないんだけど、なぜかエリート風吹かしている。
事務所の掃除も雑用もロクにできず文句ばかり言っている。
ファックスを頼んだら
「今時ファックスなんて使うんですかー?(笑)」
みたいな感じ。
営業の仕事なんかとても任せられない状態なのに、自分ならああするのに、と先輩の仕事にも文句を付けていた。
我慢できなくなった営業担当の先輩が課長に相談。
すると課長は
「わかった、何とかしよう」
と策を練ってくれた。
翌日の朝礼で課長は
「今日から○君(新人)には営業に出てもらうことにした。 ○君、書店周りをしてうちで新しく発行される本を置いてもらうようにしてくれ。 これは毎年新人がやる初めての仕事だ。アポイントなしで行くので苦戦することもあるだろうががんばってくれ。 大体みんな平均して20店舗くらいは置いてもらえるが君は話もうまいので 30くらいはいけると期待している。もしも足りなくなったら事務所に電話して 他の営業に届けさせるから」
と話した。
もちろんそんな恒例行事はない。
新人に渡される本も難解な内容の返品本。
こんなの1店舗でも置いてもらえれば奇跡もの。
課長は他の営業に
「君はいくつ配ったんだっけ?」
と尋ねて回っていた。
みんな
「自分は22冊でした」
「あー・・僕は19でした」
「だめじゃないか、平均以下だぞ!」
みたいな会話をしていた。
新人は大張り切りで出かけていった。
でもその日退社時間まで帰って来なかった。
携帯を鳴らしても取らない。
翌日課長のデスクで
「雨が降ってたから」
「バイトばかりだったので」
など 必死に弁解してた。
その後…
翌週からその新人は、早出・残業・雑用と、文句も言わずこなすようになった。
約一月後の朝礼で、彼はこう切り出した。
「ようやく一ヶ月かけて26冊置いていただけました。申し訳ありませんでした。
ところでお聞きしたいのですが、この本の売り上げが、前期計算で月あたり平均
10~20冊程度だったわけですが、先月お聞きした優秀な諸先輩方の数字を
全て足してもその数字には届いていないんですが、これはどういう事でしょうか?」
皆押し黙ってしまった。彼は続けた。
「どうやらある種の通過儀礼だったようですが、それはそれでかまいませんので、
まあ週末にでも苗枝あたり(高級居酒屋)でゴチしてください。
ところでモノは相談なんですが、現在売上上位の「○○人入試の小論文」なんです
が、あれ僕に任せていただけないでしょうか。」
それは課長が身を粉にして小売各社と交渉して売上を出してきた、いわばドル箱
だったんだが、その仕事は現在成績トップの主任が引き続き担当して
いる仕事だった。
主任「お前にはまだ早いよ。それに各社との顔合わせだってまだだろ。」
新人「そうですが、とりいそぎ紀○○屋に居る知り合いに拡販の計画申し出は
行ってあります」
主任「勝手にそんな事するなよ。こっちだって計画があるんだぞ!」
新人「しかし今現在、売上は下降曲線を描いてますし、良い本なので是非とも
任せて欲しいんです」
そこに課長が割って入った。
「まあ、お願いしてみようじゃないか」
しばらくして新人は、「○○人入試の小論文」の今年最高の月次売上を叩き出した。
以前とは人が変わったような丁寧な仕事振りだったが、どこか目が遠くを見ている
気がしてならなかった。
しばらくして、彼は転職していった。
ある日、彼から会社に電話があった。
「お世話になっております。紀○○屋書店営業の【新人】です」
凹むね~(byボーマ)。
彼はスーッとしている事だろう。俺もがんばろうっと。