彼女と、ちょっと高級なスーパーに行った時の話。
大学の頃、両親が旅行に来ることになった。
俺の下宿は部屋が余っていたので、宿として使うことになった。
それで、母が俺に
「久々に母の味を食べさせたい」
って言うので、ちょっと高めのスーパーで俺と彼女(丁度両親に紹介した)があらかじめ食材を買っておくことになった。
必要な品物を揃えてレジ待ちしてると、俺たちの後ろに並んでたマダムの子供が急にぐずりだした。
小学生くらいの子供は、
「早く、帰りたい、帰りたい、は・や・くーー」
と散々駄々をこね泣き叫んでいた。
しかし母親は
「うるさいわね、順番待ちしてるんだから黙りなさい」
と、かなりきつめに叱っていた。
待ってる間、カートにしがみついた子供が喚きながらカートを押すので、前にいる俺の脛にカートが当たってかなりイライラ。
しかも当たってるよと言っても聞かない。
でも子供のやることだしと思って我慢していた。
すると、見かねた彼女が母親に
「お先にどうぞ」
と言った。
するとその母親は、彼女の顔と買い物カゴを見比べると
「はんっ!」
と鼻であしらった様な声を出し、台に置いていた籠をおろそうとしていた彼女を体で押しのけるような形で前に割り込んだ。
急に籠を台から落とされる形になった彼女は、変に手首に力をいれたせか、手首を痛めてしまった。
しかし、相手は勿論、ありがとうのお礼もなし。
彼女をちょっと乱暴に扱われたこともあって、イラッとした俺は
「譲ってもらってその態度ってないんじゃないですか?彼女、手首痛めたんですけど」
と一言言った。
すると、その母親はかなり怪訝そうな顔して
「若者がこんな所で買い物?もうちょっと身の振り方を弁えたら?ここはあなた達の身の丈に合ってないでしょう?」
と言い、半ば落とす形で足元においた買い物かごを足でガスガス蹴られた。
そして
「食品床に置くなんて汚らしい!」
と捨て台詞。
さらに、客同士のトラブルがあるのに、レジの店員は見てみぬふりして母親の会計してるし、我慢の限界だった。
俺が口汚い罵りを言いそうになったところで、彼女が突然言った。
「申し訳ありませんでした…」
「お礼の一つもご存知にならない、常識知らずの方専用のスーパーとは
存じ上げておりませんでした。
私どもはちゃんとした常識を弁えたスーパーを利用するべきでした」
神妙な顔で言ったかと思うと、レジの人に向かって
「そのようなわけで、お仕事を増やして大変恐縮ですが、
○○(店員の名前)さん、こちらの籠の品々、戻しておいてください。
後ほど本社の方にはご迷惑をかけた謝罪を致したいと思います」
と深々と頭を下げた。
それを聞いた店員は「はぁ」と間抜けな返事。
彼女は宣言通り、籠を店員に渡すと、そのまま出口に直行。
それを見ていた店員のおばちゃんが店長に連絡したらしく、慌てて店長が飛んできた。
店長からは物凄い勢いで謝罪されたが
「どうして謝るのです?あなた方は何もなさっていないじゃないですか」
と彼女の笑顔の一言に、店長ホントに笑えるくらい大慌てしていた。
その後店側の配慮などいろいろあって、母親から彼女の手首の治療費、
俺の足の治療費(イラついてて気付かなかったが、
カートで当てられた時に一度足の小指にガツンとやられ、爪割れて骨折れてた)を
払ってもらえることになり、母親の旦那の方から謝罪もされた。
が、「どちら様ですか?」との彼女の一言により、
後日、左半分の顔が腫れ上がった問題の母親もつれて頭下げに来た。
そして彼女の一言が相当響いたのか、スーパーでかなりいろいろサービスしてもらえた。
その後稀にその母親と子どもを見かけていたのだが、
母親はこっちの姿を見るなり逃げるようになり、
最終的に使うスーパーを変えたのか、全く見かけなくなった。