私が二十歳の頃に勤めてたところはガテン系というか技術職のおじさん達ばかりの会社で女性社員は産休間近の事務員さん(30代)のみ。
彼女が産休とるからって急募かけて給料に釣られて入社したのが私だった。
大急ぎで引き継ぎして慣れない事務仕事をする小娘をおじさん社員達は甘やかしはしなかったけれど、可愛いがってくれたと思うし、私も足を引っ張ったり迷惑かけないようにと頑張りながらも毎日が楽しかった。
上司Aが赴任してくるまでは。
Aは本社のお偉いさんの縁故で入社したらしく、初めから役職付きで現場仕事は一切しない。
というか事務所をウロウロしてるうちはまだ良かった。
暇を持て余したAは私をくだらないこと(コンビニでコーヒー買ってこいとか)で顎で使うばかりか、取引先から掛かってきた電話内容を伝えないなどの嫌がらせを始めた。
その尻拭いに残業をしていると
「やっぱり女は使えねーなw」
と鼻で笑い、定時でAは帰るか、珍しく残っているなと思うと
「こんなショボい会社に入るんじゃなかった。俺は頼まれて来てやってんだからな」
と会社の悪口。
そんなストレスMaxの頃に本社と合同の忘年会が行われた。
当日、嫌がらせに年末も関係ないAは、提出期限ぶっちぎりで過ぎた書類を数枚ヒラヒラさせて
「今日中にやっとけよ」
と言い放ち、上機嫌で定時キッチリに上がり会場へ向かった。
その姿を横目に、私は経理や何やらへ頭を下げ、どうにか判をもらい…と走り回っていると、見かねた主任や現場から戻った人達までが一緒に忘年会行こうと言って手伝ってくれた。
一時間遅れで会場へ着くと、既に酔っ払ったAが
「遅刻だぞお前ら!」と怒鳴りつけてきた。
元はといえばAが…と食って掛かろうとする社員を主任が無言で抑え、宴会に参加していると、Aはお得意の、こんなショボい会社云々の悪口を言い始めた。
はじめは黙って聞いていた私だけど
「ま、俺はいつ辞めてやってもいいけど困るだろ?お前ら」
の台詞にカチンときた。
そこで、つい言ってやった。
「…困りませんから」
「あ?」
と聞き返したAに私はまくし立てた。
「別にAさんが辞めようが困らないって言ってるんです。いつも仕事の邪魔ばかりで、今日も主任さん達が手伝ってくれなきゃ終わらなかったのに」
「いつ辞めてやってもいいなら今すぐ辞めてください、どうせ口ばかりでしょう!」
実際はスラスラと言えた訳じゃなくて、私もお酒が入ってるとはいえ上司に向かってだからつっかえて半泣きだったけど、とにかくそういう内容を大声で怒鳴った。
しまった、と思った時は既にAの顔は鬼のような形相になっていて
「言ったな?!小娘が、覚えてろよ!後悔しても遅いんだからな!」
と叫んだかと思うと会場を飛び出していってしまった。
残された私が茫然としていると、社員さん達が集まってきて、
「よく言った、気にすんなよ」
と声をかけてくれたけど、それ以上飲む気にもなれずタクシー頼んでアパートに帰った。
翌日、Aが出勤してこないので二日酔いかな…と思っていると昼頃、本社から社長がやってきた。
「ちょっといいかな?」
と主任と2人、会議室に呼び出され聞かされたことは
・Aは社員寮(会社借り上げの単身用マンション)に入ってるんだけど、欠勤連絡がないので行ってみるとドアにガムテープで辞表が貼り付けられていた
・管理会社に連絡して鍵を開けると室内は空っぽで私への罵詈雑言を書き殴った手紙が置かれてた
らしい。
会場を飛び出した時点ですごい酔っ払っていたし夜遅かったのに、それから荷物まとめて辞表書いたのか…と半ば関心してハッと我に返った。
本社から来た上司を辞職に追い込んだよ私。と
ガクブルな私に、社長が
「今日はもう帰っていいから荷物まとめて」と言った。
「主任くん、夕方までに引っ越し業者をよこすから荷造り手伝ってやって」
「えっ?」
「Aの手紙すごいよ。仮にも嫁入り前の娘さんに何かあったら大変だから引っ越してもらう」
と言われた時に背筋が凍った
どうやらサツガイ予告めいた内容が含まれてたので社長自ら動いたらしい。
結果だけ書くと、Aはしばらく失踪して再び親のコネでどこか遠方に就職したらしいけど詳しくは教えてもらえなかった
私はクビにならず十数年勤めて今は育休中。
とりあえず平和に暮らしています。