2024/06/08
顔見知りでもなければ通常ならこれで終わりである。
しかし、その漁師はいつまでたっても手を振るのを止めない。
遠ざかっていくその最新鋭の漁船のエンジン音にまぎれて
「ドドドドド・・・すけ・ド・れ・・ドドドドド・・・」
と聞こえてくる。
不信に思った祖父は、糸を巻き上げ、その漁船の後を追った。
横につけたとき、何が起こっているかすべてを理解した。
トローリング漁で網を巻き上げる機械に、漁師が右腕から肩あたりまでを巻き込まれていた。
気絶しているのか、すでに事切れているのか漁師はピクリとも動かない。
その漁船はトローリング中で低速ではあるがゆっくりと動いていたので
横につけて乗ることはできない。
たとえ、ロープなどで固定しても、祖父の非力な漁船では、もって行かれるのがオチだろう。
祖父は仕方なく、その漁船が四国の沖のほうに
ゆっくりゆっくりと走り去るのを後ろ目に、漁港へと船を走らせた。
漁港で何が起きたかを説明すると、漁に出ていない漁船や
連絡が取れる漁船を総動員して、捜索が始まった。
数時間後沖に向かっていたその漁船は、
何故か四国のほうに行かずに、近くの岩場で座礁していたらしい。
結局、その漁師は発見されたときは
腰あたりまで巻き込まれてなくなっていて、機械からイタイを外すのもかなり難儀したそうだ。
そして洒落にならないのは、その漁船は格安で売り出され、
今もどこかでトローリング漁を行っている、ということだろう。