2024/06/08
大学に入ってしばらくした頃、 今までバイトってものをやったことがなかった俺は人生経験のためにバイトを始めた。
そのバイト先の先輩に吉村という男がいた。
小太りで、服や髪は秋葉系の人だった。
無口で冗談などはほとんど言わず、自分の興味のあることだけを延々と話すような人で 、かなりとっつきにくい人だった。
俺とシフトが重なったとき、吉村はよく俺に彼女の話をしてた。
「もうすぐ俺、結婚するんだよ。彼女、ストレートの黒髪で、すごくかわいい子なんだ」
吉村はそんな話を延々と続けてた。
一応バイトの先輩だし、他にこの人と盛り上がれそうな話題もなかったので、俺はいつも聞き役に徹し、適当に相槌打ったりして時間が過ぎるのを待った。
ある日、バイト先近くのファミレスで友達と待ち合わせをした。
ファミレスに入って店内を見渡してみたけど、まだ友達は来てなかった。
しかし、ファミレスの一番奥の席には意外な人物がいた。
吉村だ。
こちらからでは後姿しか見えないが、吉村の前には女性が座っており、二人で話し込んでるようだった。
正直、吉村のプライベートに踏み込む気は全くなかったけど、ガラ空きの店内でバイト先の先輩がいるのにあいさつしないのも不自然だと思って、吉村に声を掛けた。
俺「こんにちは。吉村さん。今日はデートですか?」
吉村「ああ。今ちょっと彼女と難しい話してるんだよ」
吉村は素っ気無くぶっきらぼうに答えた。
しかし、俺の声に反応して振り返った女性は、涙を流しながら首を振って
「違うんです。付き合ってないんです」と言った。
俺「え?…」