2024/06/08
あきれたことに、これで終わらなかった。
うちに迷惑をかけたお詫びにとAさんが菓子折りを持ってやってきた。
はつらつとしてきれいな人だったが、今は見る影もなくやつれてげっそりしていた。
言わずもがなだろうけど、言わずにはいられなかった。
「運命の人もいいけど、子供さんのことを考えなよ。旦那さんだって心配してたよ」
Aさんは答えなかった。私がなおも言おうとするとそれをさえぎり、
「だって海へ行きたかったんだもの」
「えっ」
Aさんは焦点の合わない目で、歌うように続けた。
「わかるでしょ。海に行かせて」