2024/06/08
「単刀直入に言います。ご主人は会社の金を横領していました。証拠もあります」
「お、横領!?」
予想外の展開に思わず変な声が出てしまう私。
彼女の証言によると、夫が所長時代にAさんは夫の秘書のような役割をしていました。
が、新らしく入社してきた女性社員がその仕事を引き継ぐ事となり、
その辺りから、明らかに不自然な計算書や誤魔化したであろう領収書が目に入ってきたそうです。
そして彼女に指摘した所、何故か夫から「新人を虐めるな」とAさんが怒られてしまい、
それ以降Aさんは2人から嫌がらせをされ続け、挙げ句の果てには
本社へ吸収される際に行われたリストラの対象者にされてしまったそうです。
幸いAさんは優秀な方だったので、無事に本社へ行く事ができて、
代わりに例の女性社員が辞めたのだとか。
それでも納得のいかなかったAさんは、本社に吸収されるまで少しずつ証拠を集め、
時が来たら告発をしようと考えていたのだそうです。
「Aさん、主人のせいで大変な目に遭わせてしまったのですね。本当に申し訳ありません」
私は情けない気持ちでいっぱいになりながらAさんに謝罪しました。
「いえ、謝らせるつもりで来た訳ではありません。
奥様には本当に良くしていただいたから、事が大きくなる前に知らせておこうとしただけです。
恐らくご主人の処分は大変厳しい物になる筈ですから。それに…その…」
と、Aさんはまだ何か言いたげな雰囲気を出していたのを見て、察しがつきました。
「主人とその女性社員が不倫関係にあるんですね?Aさん」
Aさん「何故知ってるんですか!」と、すごくビックリしていました。
そして私はこの件で主人と離婚する決心をしました。
それから1ヶ月程の間は新居探しをしたり、
弁護士さんや家族3人を交えて色々話し合って離婚の準備を進めて行きました。
そしてある夏の日の夕飯の最中の事です。
夫「また明日から暫く会社に泊まり込むから。何かあったら携帯に連絡してくれ」
と言いました。
すると、いつもなら返事しかしない息子が、夫に挑発を始めたのです。
息子「て言うかさ、なんでいつも携帯なの?普通なら会社って言うよね」
夫「たかが家族の用事の為に会社の電話を使う訳にはいかないだろう」
息子「へ~。父さんてそんなに堅い考えだったっけ?
それと家族の事を”たかが”扱いだと思ってたなんて初耳だよ」
夫「なっ!?社会人にもなってない癖に分かった様な言い方をするな!」
耳まで真っ赤にし、明らかに動揺した夫は、
息子に持っていた箸を投げつけて席を立ちました。
すると、今度は無言で食事を続けていた娘が夫にこう語りかけたのです。
「お父さん、今でも私達の事を愛してる?」と。
夫は一瞬口を開きかけたが、何も言わずにそのまま書斎へ入って行きました。
これが家族で過ごした最後の夜でした。