2024/06/08
Aは契約社員になってからますます頭角を表していった。
A個人に付いている客も多く、成績は常にトップクラスだった。
Aはその分懸命に働いて残業もこなしていたんだが、定時が過ぎた後はAに
「分かってるな?」
とだけ言ってやると、Aはタイムカードを押した後再び勤務に戻った。
残業代を抑制させる為の処置だった。
まあAだけじゃなく契約社員には多かれ少なかれそういう事をやっていた。
以前は派遣社員にもやっていたそうだが、それをやっていた別の上司が派遣会社側から訴えを起こされ大問題になったので派遣にはやっていなかった。
実質契約社員は残業カットをされている状態だった為、契約社員の中には「派遣に戻りたい」と言う人間もいたぐらいだった。
とは言え、昇給・各種手当てが無いのとボーナスの査定基準が正社員と違う以外は、概ね正社員と変わらぬ待遇だった為、問題となる程の不満は出なかった。
契約社員で成果を上げると、短い人間で半年、大体1年ぐらいで正社員への昇格への道が開けるのだが、Aには
「現場の判断」
で2年目、3年目になってもその声がかからなかった。
さすがにその頃になるとAも段々と不満の声を上げ始めた。
まあ当然だと思う。
他の派遣・契約社員は元より、並の正社員や上司に当たる俺よりも実績を上げていたからだ。
Aの仕事の成果は会社としては部署全体の成果として報告されていたが、その事もAにとっては不満だったらしい。
どんなに数字を上げてもボーナスや昇給として見返りがあるのは正社員である俺達だけで、A個人には一切無いと、別の契約社員に愚痴をこぼしていた事もあったそうだ。
奴の契約社員も4年目に差し掛かった頃、ついにAが俺に直訴してきた。
「どうして自分より成績が低い人間が正社員に昇格してるのに、何故自分は正社員になれないんですか?」と。
俺は
「あくまでも現場の判断だ」
と答えた。
そして
「次の契約更改に期待していてくれ」
とだけ言った。
Aは渋々納得していた。