2024/06/08

俺は少し後ろに下がった。
驚くほど冷静な菜美の言葉を聞いて、体の震えが止まった。
今、自分が何をしなければならないかが、はっきり分かった。
「私が俺男守るから」と言う言葉を聞いて
刃物の前に飛び出す決心が固まった。
最悪の場合、俺は全力で菜美を守る。
菜美と吉原が話している最中、
騒ぎを見に来た40代ぐらいの男性と目が合った。
俺は声を出さずに「けいさつ」と口だけを動かした。
見物人の中年男性は、うなずいて渦中の場所から小走りに離れて行き
50mほど先で電話してくれた。
その間も吉原は「俺たちは結ばれるんだよ」とか
「お前は俺を酷い男だと思ってると思うけど、それは違う。
おまえはこの男に騙されてるんだよ。
こいつが、あることないこと吹き込んでるだけだから」とか
「結婚しよう。将来は生活保護もらって、お前を幸せにするよ」とか
聞くに耐えない話を延々と続けていた。
菜美は適当に話を合わせて、吉原の会話に付き合っていた。
それにしても、何なんだ吉村は。
以前も訳が分からないやつだったけど、今は以前以上だ。
支離滅裂で会話にさえなってない。
それにここは、確かに商店街ほど人通りは多くないが
人通りが少ない場所じゃない。
俺たちは、なるべく人通りの多いところを歩くようにしてたけど
それにしても、よく使う道でもっと人気のない場所なんていくらでもある。
一体、何考えてんだ?