2024/06/08
「・・・・歯、磨いてくる。」
いたたまれなくなった俺は、飲み終えた湯飲みと皿を台所のボールに沈め、洗面所(脱衣所)に妙な格好で向かう。
不肖の息子はコレまでこんなになったことはない!と言うくらいに怒張し、うまく歩けない。
「スミス、エンゲルス、マルクス、ケインズ・・・」
冷静になる呪文を唱える。面白かった大学の授業を思い出せ。
ボサボサ白髪のアインシュタインな教授を思い出しながら、鏡に映った赤面した自分の顔を情けなく見つめ、歯
ブラシを動かしていた。
歯磨きを終えて顔を洗い、茶の間に戻ると入れ違いにイト子が歯を磨きに行く。
わざわざ狭い引き戸の近くで、体をお互い横向けてすれ違いざま、おしりが俺の脚にかすっていった。
こ・・・こいつ、わざとか?と疑う自分が、ひどく浅ましく思えた。
ぬくもりの残る寝袋へまた潜り込み、ちゃぶ台の下へ頭を突っ込むようにして横になった。
俺の背中を通って、イト子は寝室へ向かう。
「俺くん、おやすみなさい。」
「あ、うん。おやすみなさい。」
灯りを消され、暗くなった室内。
奥の部屋から襖越しにイト子の息遣いがかすかに響く。
俺、今夜眠れるんだろうか?
お茶なんか飲まなきゃ良かった・・・と不安になりながら目を閉じた。
987: 名無しさん@お腹いっぱい。 2018/10/11(木) 19:11:54.96 ID:Tt42xHwoB
案の定寝付けなかった俺は、イト子よりずいぶん遅く目が覚めた。
それでも朝7時。
自堕落な俺には、十分早い。
おぼろげな視界に入ってきたのは、スーツにエプロンのイト子の後姿。
再びポニテにまとめられた髪。
生まれて初めて、うなじって色っぽいんだと感じた。
小刻みにおしりを揺らしながら、台所で朝食を作っている後ろ姿にぼーっと見とれていると、
「俺くん起きた? 今、朝ごはんできるからね。」
と、振り向きもせずに声かけられた。
後ろにも目が付いてるのかとびっくりして目が完全に覚め、冷や汗が出た。
ちゃぶ台に味噌汁と卵焼きとを並べながら、
「私、これ食べたら出るけど、俺くんは?」
とか聞かれた。
「俺も、夕方バイトに出る。だから、これ。」と、合鍵を渡した。
「うん、わかった。何時頃帰ってくる?」
「遅くなるから。先に寝てていいよ、風呂も部屋も好きに使っていいから。」
目を合わさないように、朝食を並べていく手を見ていた。
「わかった。気をつけて行ってきてね。」
「ありがとう、イト子さんもね。」
久々に暖かい朝食を食べた。めちゃ美味しかった。
手早く朝食を済ませると、イト子は出かける準備をし始めた。俺はわざと、ゆっくりゆっくり朝食を食べた。
不思議な良い香りを残して玄関から出かけていくイト子を見送り、朝食の洗い物を済ませた後、イト子が寝ていた部屋の押入れ
の奥にしまいこんだ、けしからん本を引っ張り出してきた。