2024/06/08
Aちゃんと連絡を取るかとらないかなんて、俺には確かめようがない。
それに、Aちゃんからもきっと連絡はくるだろう。
だけど、とらないでほしいし、約束してほしい。
そういったら嫁は
「約束します」
と真剣な顔をしていった。
嫁からは木曜の夜に一通だけメールが来た。
どうしても仕事が終わらなくて、このままじゃ実家への終電が間に合わない。
今日は会社近くのビジネスホテルに泊まろうと思うが良いか。
了解、とだけ返すと後からいかにもビジネスホテル、って感じのシングル部屋の写真が添付されてきた。
嫁なりの潔白をあらわすための行為だったんだろうけど、これから嫁と暮らしていくってことは、こういう行動にも目を光らせていくってことなのかと思うと、逆にへこんだ。
嫁がいない間、出会ってからのことを考えていた。
誰かが書いていたみたいに嫁は俺のことがもう好きじゃなくて、ただ、そう思い込まないと結婚生活がやっていけないからあんなに自分ルールを作っていたんだろうか、とか、嫁を大事にしていたつもりだったけど、俺はずっと嫁の行動に応えてるばっかりで、確かに嫁はそれがしんどくなってきたのかもしれないとか、ぐるぐる考えていた。
嫁の両親は別れてはいないものの、かなり仲がよろしくない。
誰かが言っていたけどまさに冷めた同居人のような関係らしい。
俺たち夫婦が行くと歓迎をしてくれるものの、常に俺たちを介して会話をする感じで、正直2人のときに
どうやって会話が成立するんだろうって思う。
嫁は結婚の挨拶を俺の親にしたときに、父親が母親のことをのろけたのを見て、すごくうらやましがっていた。
こんな夫婦になりたいんです。といって親父を喜ばせていた。
嫁が描いた理想の夫婦になるために嫁は頑張ってたのだろうと思う。
3日間一人でいるときに思ったことは、つくづく嫁とは2人で1つになっちゃってんだなってこと。
すぐそばに当たり前にあった抱きしめる体とか手をつなぐ先とかがなくなって、好きだ好きだ言ってくる相手がいなくて、現実的に生きていけないんじゃないかと思った。
俺は料理が好きでよく作るんだけどこの3日は何にも作る気がしなかった。
嫁を許す、許さないの結論は、話し合う前から、もうこの3日間で出てた。
俺が、やっぱり嫁とやり直したい。
ただ、問題は山積みだ。
嫁が本当に俺のことが好きじゃなくなっているなら、たぶん嫁がどんなに自分ルールを作ったって意味がないだろう。
嫁がいくら理想の夫婦を演じようとしたところで、そんな結婚生活に意味なんてないと思う。
二つ目は相手の男のこと。
嫁の会社にどうこう言う気は無いが、少なくとも男が二度と近づかないように手を打つ必要はある。
三つ目はAちゃんのこと。
あの煽りがなけりゃこんなことにならなかったんじゃないかと思うと、俺の中ではAちゃんへの腹立ちが収まらないし、できれば二度とかかわってほしくはなかった。
さて、嫁とは土曜日に家で会った。
この3日間でこっちの気持ちは固まっていたけど、正直話がどう転がるかはわからなかった。
さっき書いたみたいに そもそも嫁の気持ちが俺に無いのであれば、やり直すことはダメだろうと思っていたし。
もしかしたら、これが何か神様がくれたチャンスで、嫁が他の男を好きになった理由が俺にあるのであれば、きちんと話を聞きたいと思った。
嫁は綺麗に化粧をしていた。
ちょっと会わなかっただけで隣の綺麗なお姉さんみたいに見えた。
ただ、鼻がかぴかぴになってむけてた。
お茶を飲む習慣もない俺たちはあっという間に手持ち無沙汰な感じになった。
「外泊するって、よっぽど仕事忙しかったの?」
「・・・年始から急にお客さんが発注したいって連絡きてね。」
みたいにぎこちない会話を繰り広げる。
嫁は一生懸命笑顔を浮かべようとしてたけど、明らかに引きつってた。
「話をしたいんだけど、その前に幾つか知りたいことがある」
嫁は真剣な顔をしてうなずいた。
「あの、男のことをちゃんと教えて」
今日話しあいたいのはこいつのことじゃなかったけど、嫁の口からこの男のことだけは聞いておきたかった。
嫁の話はAちゃんとのメールのやりとりから察したものと大筋は一緒だった。
既婚者の嫁に手を出してくるくらいだから相手も結婚しているんじゃないかと気になっていたが、男は独身とのことだった。
年齢は30代で、ITコンサルの会社を経営しているらしい。
自分が思っていたよりスペックが高くてへこんだ。
「女扱いされて嬉しかったのもある。自分でも馬鹿だと思う。ただ、自分がきつい時に一緒に頑張ってくれたことが嬉しかった。」
嫁はやっぱり俺の前では泣かなかった。
どこまで話していいのか迷ってる感じはちょっとした。
「嫁のことがすきだって言ったの?その男。既婚者だって知っててくどいてきたの?」
スペックにへこんだ俺は少し語気を荒げた。
嫁いわく、好きだとは言われたが本気ではないと思う。
二人で飲むと礼儀のように女をくどくタイプだ。
あくまで私が浮かれただけ。
私が馬鹿だった、と。
でも話をよくよく聞いたら その仕事の打ち合わせだなんだと称してしょっちゅう嫁を呼び出すし、飲みに誘われたのも 一度だけじゃないらしい。
嫁が男をかばっている風なのに腹が立ってきた。
「俺のこと、好きってずっと言ってくれてたのはなんだったわけ?」
「浮かれてる間も毎日すきすきいってくれてたんだよね。これから、嫁がすきっていっても信じられないよ。何で、恋愛相談をAちゃんにしながら俺にすきとか言えるの?」
結局責めてしまった。
嫁は歯を食いしばって泣くのをこらえてた。
ふだんちょっとしたことで感動して泣くくせに、とにかくふーふー言ってしばらく無言。
しゃべりだそうとしてまたこらえて、の繰り返し。
「あなたのことが好きだから結婚したし、ずっと好きでいたかった。結婚しても、あなたのお父さんみたいに私のことを30年先にものろけてくれるような、そんな夫婦でいたかった。だから好かれたくていろいろやってきたんです。」
ああ、過去形だ…と思った。
「あの人のことが気になり始めたときに、厄介なことになったと思った。自分でぶち壊すことになるんじゃないかって思った。だから、仕事やめて関係を切り捨てるか、1回やって収まりつけられたらいいって思った。」
嫁は秋口から冗談めかして転職か、いったん会社を辞めて子作りしたい、という話を口にしていた。
今の仕事は残業も多いし、将来的に子供がほしいなら卵子がまだ若い今のうちに作ったほうが良いと思う。
ただ、俺は正直、嫁さんの今の会社での評価や給料のよさを思うと、そこまで極端に走らんでいいんじゃないの。と思ってた。
「一回やって」はひどいけど、ただ嫁が冗談めかした言葉の裏にはこういう事情があったんだな、とは思った。
俺は嫁と会う前に決めてたことがある。
どういう最悪の答えが返ってきても、俺の気持ちはちゃんと言おう。
結果が別れることになっても、俺はたぶん嫁の思いに応えるだけじゃなく、自分が嫁に対して思ってることを伝えたいと思った。
「本当は今日、嫁が俺のことをどう思ってるのか聞きたいと思ってたんだけど。それより前にまず俺が伝えなきゃいけないと思って。」
「俺は別れたくないです。」
で、そこまで言った瞬間に俺の涙腺が決壊してしまった。
とりあえず嫁より先に泣いてしまったことにびっくりしたんだけど、嫁を見たら、あんなに涙をこらえてた嫁が 泣き出した。
なんていうか、しくしくとかじゃなく、あーーーー!!!
泣き方だった。
「3年間嫁の方から好きだといってくれてたことに甘えてたのかもしれない。」
「俺から嫁にできることがもっとあったかもしれない。」
「どうにか一緒に生きていけないか」
そんなことを訴えていた。
最初の予定ではもっときりっといくはずだった。
嫁は何度もえづいてて、ちょっとかわいそうになるくらいな泣き方をしていた。
言い訳をしないとか、泣いたら卑怯になる、とかいろいろ考えて溜め込んでたんだろうな。と思った。
解決しなくちゃいけない、はっきりさせなくちゃいけない問題はあるけど、この嫁の態度みてたらいけるんじゃないかと感じられた。
嫁が落ち着くのを待って、もう一回聴いた。
「これからどうしたいのか。」
嫁は、
「俺君が許してくれるなら、もう一度やり直させてほしい」
と言った。
素直に嬉しかった。
いや、本当に嬉しかった。
でも、いろいろと現実的に解決していかなきゃいけない。
まずコンサル男。
「コンサル男とは直接話をさせてほしい。」
といったら、嫁は案外あっさりうなずいた。
予測はしていたみたいだ。
コンサル男の連絡先を聞いて、電話。
しかし留守電。
嫁の携帯からかけようかと思ったけど、折り返しがそっちにいくのが嫌だったので週明けに相手の会社に
連絡をすることにした。
実家に帰らせたのがまずかった&母親が来た件なんだけど、
こっちが多少ややこしい。
簡単に言うと、嫁は実家に帰ったときに母親に 何で帰ってきたのか問い詰められたそうです。
→嫁が理由を言わず自分が原因でケンカした と告げる
→母親が「あなたは父親と似て愛情が薄いから」「飽きっぽいから」結婚生活がうまくいかないと思っていた。
俺君に捨てられたら拾ってくれる男なんていない。
あなたが悪い。
俺君に謝まれ。
みたいなやりとりがあったらしく、だいぶ自分不信になって今日の話し合いの場に来たらしい。
嫁の両親がうまくいってないのは、どうやら父親側の不倫問題があったようです。
嫁が話し合いの最中に、
「私もこうやって大事な人を裏切ってぶち壊すんだ。俺君の親みたいにはなれない」
とかいうので、少し落ち着いてから聴いたら、そういうことでした。
義母は嫁に義父を投影しているのか。
少し厄介な話でした。
翌日義母が来たのは話し合いに行った嫁が
帰ってこない。電話にも出ないことを心配してでした。
ただ、義母の嫁への接し方や意見が嫁を不安定にさせてるのかな。
と思います。
今回嫁と話していて、嫁は結婚を持続させることに対して、何か強迫観念みたいなものがあるように思った。
自分にはできないことだから頑張らなくちゃいけない。みたいな。
もっとゆっくりでいこう。
ゆっくり夫婦になろう。みたいなことを いっぱい話しました。
嫁が戻ってきたのでこれからまた一緒に暮らします。
距離を置くのがいいのか、悪いのか。
俺にとっては失えないと思えた貴重な3日でした。
最後に、蛇足ですが…
Aからは昨日俺に電話が来ました。
あの深夜の電話は何か。※嫁のケータイ見た晩のやつ。
嫁に電話がつながらないが、今一緒にいるか。
嫁はまるきり事情を伝えず電話を取らなかったので、事情がわからない。
Aは深夜に俺から電話が入るしで、自分のメールで何がおきてしまったのか、心配でしゃーなかったみたい。
とりあえずメールを見たこと、嫁といろいろあったこと、全部伝えました。
腹が立ったこともあって
「今回のこと、相談受けてただけじゃないだろ。明らか煽ってたよね。それで俺らが別れたら責任取れるの?」
「独身で遊びたい、っていうのに嫁を巻き込まないで」
と伝えた。
で、嫁から連絡するまで一切連絡してこないでほしい、と。
嫁とAを切り分けるのは難しいかもしれないと思ってる。
今はその条件を嫁も飲むかもしれないけど、まあ状況しだいになるだろうなと思う。
嫁を監視するような形になるのは望ましくないけど、信頼がいったんリセットされたのはお互いわかっているので まあ、目は光らせておくつもり。