2024/06/08
「会いたいんだけど、駄目かな」
「何の話でしょう」
よくわからなかった。
「俺、今の仕事やめて県外に行く。最後に私子に会いたいと思って、駄目かな」
彼男が職場を離れることは噂で聞いていた。
どうしようと思ったけれど、最後だから彼男に「頑張ってください」と言いたかった。
電話を切った後、A男にはきちんと話した。
A男は、「ちゃんと私子ちゃんの気持ち話しておいでよ。彼男さんは悪い人じゃないから」
そう言ってくれた。
待ち合わせ場所に行って彼男の車に乗った。
彼男は最初は無言だったけれど、少ししてぽつぽつ自分の家庭の話をし始めた。
以前と同じ、どれだけ自分がないがしろにされているか。
私子は聞き流していたけど、 「女房がやっと離婚届に判押してくれてさ」
この言葉に、ちょっとびっくりした。
「でさ、離婚したから私子と一緒になれるって思ったわけ」
「えっ」
「私子と結婚しようと思ったんだよ。だから、私子の部屋で待ってた」
「えっ、あの?」
「待ってたけどさ。帰ってこないから、暇だろ。私子の日記を読んだ」
「彼男さん!」
「A男君っていい奴だね。あいつはいい奴だ」
私子は日記を書くのが癖で、ノートに毎日その日の出来事を書いていた。
彼男はそれを知っていたから、私子が帰って来る前に部屋に入って日記を読んでいたんだと言った。
471: 恋人は名無しさん 2010/09/19(日) 09:15:15 ID:8ZkDmsjC0
車は山道に向かっている。
「彼男さん、私帰りたいです」
「何、言ってんの。帰さないよ」
この時、私子に向けられた彼男の顔は忘れない。
私子は山道の途中で、車から降りろと言われて、
そこで長い間、殴る蹴るの暴力を受けた。
彼男は私子に暴力をふるったことでふっきれたのか、
車で部屋まで送って私子を駐車場に放り出し、
こっそり作っていた合鍵を私子に投げつけて去った。
私子は1週間バイトを休んだ。A男が心配して来てくれたけど、ドアを開けることもできなかった。
怖くて怖くて、病院にも行けなかった。
留守電に毎日A男が入れてくれているメッセージだけ聞いてた。
ようやく気持ちが落ち着いてA男を部屋に入れた途端に、号泣した。
A男も泣いてた。
彼男は徹底的に私子の下半身だけを殴り蹴って足腰立たなかったけれど、
骨折まではいかない怪我だったので、A男が病院に行こうと言ってくれたのを私子は断った。
本当に怖かったから。