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弟が癌で亡くなった時、近所の聾唖のおじいさんがお通夜に参加してくれた…

time 2020/03/12

弟が癌で亡くなった時、近所の聾唖のおじいさんがお通夜に参加してくれた…

うちの近所に、いわゆる聾唖のおじいさんが住んでた。
祖父母と同世代くらいで、事情があるのか、家族はいないそうで、親戚とも離れて一人暮らしだった。

私は、小さい時、「聾唖」ということがわからなくて、どうしてあのおじいさんはいつもニコニコしてるのに、
挨拶しても返事してくれないのかな?と思って、母に尋ねた。
「おじいさんは耳が聞こえなくて、喋ることもできないの。
だから、あんたが挨拶しても聞こえないの。無視してるんじゃないのよ」
と教えられ、聞こえない、喋れないってつらいなと思った。
そんなおじいさんに、弟はよく懐いてた。
おじいさんは手話もできなくて、意思の疎通は基本的に筆談。
学校もまともに行けてないそうで、ひらがなばかり。
弟が「今日ね、○○(差別用語)さんに漢字教えてあげた!」と言った時、母が卒倒しかけたけど、その差別用語は、
おじいさんが幼少期からずっと、周囲に言われ続けたことだった。
自分が耳が聞こえないのは本当だから、と。

両親は弟に
「いくら本人がいいと言っても、そう呼んじゃ駄目」
と言っていたが、6歳の弟にはよくわからなくて、結局、親が折れた。
幸い、近所の人達も、おじいさんが自分のことをそう言っているのはわかってたから、弟は責められなかった。

弟は成長するにつれてやんちゃになり、悪ガキになっていったが、何故かおじいさんにだけはとても優しかった。
不思議なことに、筆談してないのに、弟はおじいさんが歩いてるのを見かけると
「○○さん、どしたの?」
「買い物行くの?病院?」
「そっか、買い物か。何がいるの?買ってきたげるよ」
と、意思の疎通ができていた。

時々、調理実習で習った料理を家で作って、
「○○さんに持ってく」
と届けたりもしていた。

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